第一話




 今日は夢にまで見たデートの日だ。

 久我 祐一は喜びで胸が躍る。
 何たって、あの憧れの日暮 さやかと夢にまで見たデートだからだ。
 初めて出会ったのは駅前の喫茶店。
 中学校時代の陸上部の先輩がバイトしているから遊びに行こうとその喫茶店に立ち寄った。
 そこで祐一は彼女と出会った。
 一方的な一目惚れだった。
 誰にでも優しく、華やかな笑顔が素敵な人だった。
 とても気配りで、お客が困っていると自ら進み出る。
 そんな姿に祐一は惚れてしまったのだった。
 受験生であるにもかかわらず、祐一は喫茶店に通った。
 祐一は一世一代の賭けに出ることにした。
 さやかに告白しようと決心したのだった。
 プレゼントも用意した。
 学校の女友達に相談して、おしゃれなアンティークショップに行った。
 祐一は割りかし硬派な性格だった為、こういった店には慣れていなかった。
 しかし、ここはなんとしても成功させたいという気持ちでセットのクマのぬいぐるみを買った。
 おしゃれなカゴの中にピンクと青のクマをキレイに飾ってラッピングしてもらった。
 これは中々いい。

 祐一は少し自信が湧いてきた。
 ちゃんと自分の思いとメールアドレスをつづった手紙を花柄の便箋に入れたものを、クマの間にはさんでおいた。

 そして、さやかがバイトを終えた帰りの途中、

 祐一は思い切ってプレゼントを持ってさやかの前に飛び出した。
 「・・・これ、受け取ってください!」
 声は上ずってたし、恥ずかしくてただうつむいてしまうばかりだった。
 「まあ・・・、」
 さやかは少し驚くが、
 「ありがとうございます。」
 透き通る声がうつむく祐一の耳に響く。
 顔をあげると、さやかのあの優しい笑顔が自分に向けられていた。
 それは告白といえたものではないが、確かに気持ちはちゃんと伝わっていた。

 それからメールが届いた。
 「はじめまして。日暮さやかといいます。
 ぬいぐるみ、ありがとうございました。とても可愛いです。」
 祐一は必死に返事を考えて返した。
 そうやって、メールでやり取りをして、そして今日に至るのだった。




 「こうやって会うのは初めてですね。」
 さやかがにっこりと微笑む。
 「ああ、そうですねぇ。ハハハ・・・」
 祐一は少しぎこちない。
 待ち合わせの駅の東口、
 出会ってしばらく他愛のない話をしていた。
 祐一は緊張して少し頼りない。
 「でも良かったですか?」
 「はい?」 
 「いや、流行りの服屋とかじゃなくて、山って・・・。」
 祐一は流行モノとかはよく分からない。
 しかし年頃の女性はやはりそういうものが好きではないかと思っていた。
 「だって、一番素敵なことって物や娯楽とかそういうのじゃなくって、自分が何をそこで感じられるかってことじゃないですか。
 それってやっぱり素敵な人と分かち合いたいでしょ。」
 さやかははにかみながら微笑む。
 「・・・まあ、電車来ましたから乗りましょう。」
 自分はこの人が好きだ。
 そう改めて思った。



 電車に乗って一時間ほど、
 一緒にいるだけでなんだか楽しくて、気づけば目的の駅に着いていた。
 無人駅の階段を降りて入り口の地域マップを見る。
 一応、そこで名所と呼ばれる山へ歩いていくことにする。
 もともとそんな有名でもない場所なので人もいない。
 その方がかえって都合が良かった。
 ロープウェイで山の頂上付近の休憩所のある場所に着く。
 そこから山道を登っていく。
 結構険しくて登りづらい道だった。
 多少整理されていて石の階段がある分、いくらかマシだった。

 なんとか展望台にたどり着く。
 空は晴れていたし、二人で苦労したから眺めが最高に良かった。
 「ほら見て!私はあそこに住んでいるの!」
 さやかは無邪気にはしゃぎながら指差す。
 「そこって、俺ん家に近いですよ!
 ほら、そこからちょっと左の、あの青い屋根がそばの。」
 「へぇ〜、結構近くにいたんだねぇ。」
 さやかはしみじみとして、もっともらしく、うん、うん、とうなづいている。
 そんなしぐさが可愛くて祐一の耳は熱くなる。
 この時間が今までで一番幸せに感じた。
 まだ彼女ってわけじゃないけど、それでも二人でこうしていられるだけでよかった。




 しばらくして、
 二人はロープウェイのある休憩所へ戻ることにした。
 休憩所までの山道を下るとき、
 何か登ってきたときとは違う感じがした。
 薄ら寒いというか、何と言うか、ともかく嫌な感じがするのだ。
 「ん?あれは何かな?」
 さやかはそういって茂みの方へ一歩踏み出す。
 その先には何やら赤いものが見える。
 祐一は何か嫌な予感がしていた。
 それを見てはいけない。
 確かめてはいけない。
 見ればもう後戻りできなくなってしまう。
 「さやかさん、ちょっ・・」
 言いかけたとき、
 「きゃあああああああっ!?」
 さやかの悲鳴が響き渡る。
 祐一は急いで駆け寄る。
 あまりの恐怖で座り込んでしまっているさやかの目の前には・・・


 おびただしい血の水溜り。

 貫かれて引き裂かれた四肢。

 そこには無惨な死体が転がっていた。

 「さやかさんっ!しっかりして!!」
 茫然自失なさやかの肩をつかんで必死に呼びかける。
 「ああ、ごめんなさい。」
 「ともかく早く降りて警察とかに連絡しましょう。」
 落ち着きを取り戻して立ち上がろうとするさやかを祐一は支える。

 その時
 黙っていた死体が急にビクビク動き始めた。
 そのおぞましい光景に二人は言葉を失う。
 蠢く死体はだんだん形を成してきた。
 そしてそこに立っていたのは、


 6つの赤い目

 黒と黄色の縞模様

 蜘蛛を模した怪人だった。

 二人を見据えると顎まで裂けた口がクシャァと開く。
 本能的に感じた。
 コイツは危険だ。
 二人は休憩所まで一気に駆け抜ける。
 怪人はそれを見て猛然と追いかけてくる。
 必死で二人は逃げる。

 休憩所の屋根が見え始めた。
 早く誰かに・・・!
 そう思った祐一たちの前に立ち尽くす人がいた。
 (助かった)
 そう思って叫ぶ。
 「助けてください!!向こうに化け物が!!!」
 人の姿がはっきりと認識できるまでになったとき、
 その人は、否、人ではなかった。
 「やぁやぁやぁ、不幸にねぇ、君等、もう帰れないんだ。」
 そこにいたのも蜘蛛のような怪人であった。
 コイツはさっきのと違っている。
 むしろコイツの方が凄まじい邪気を放っている。
 「お前ら、一体何なんだ!?」
 とても怖かった。
 でもここでさやかさんを守れるのは自分だけだった。
 勇気を振り絞って祐一は怪人を睨みつける。
 「ん〜、根性があるのは認めてあげるよ。
 でもねぇ、
 ・・・無駄だよ!」
 蜘蛛の怪人がスッと目の前から消える。
 気がつけば、お腹が熱いのを感じる。

 「君も僕の下僕になってくれるかな?」

 蜘蛛の怪人はいつの間にか祐一の目の前に立っていた。
 怪人の鋭い爪が腹部から背中を突き抜けて刺さっている。
 蜘蛛の爪が引き抜かれると、祐一はドサリと倒れこむ。





 「祐一君!?祐一君!?いやああああああああああぁぁぁぁ!!!!」
 再び絶叫が響き渡る。
 さやかは叫ぶと気を失ってしまった。
 「そういや、女の実験体を欲しがってたな。」
 怪人はひょいとさやかを抱きかかえる。
 そのまま立ち去ろうとする。

 「・・・待てよ。」

 倒れていた祐一が声を絞り上げる。

 「その人は・・・・俺の・・・・・大切な・・人なん・・・だ。」

 途切れ途切れに必死に呟く。

 「誰にも・・・・・・渡さない!!」

 最後の力を振り絞るが、そこまでで気を失った。

 「コイツ・・・、死にもしなけりゃ下僕にもならない・・・。」
 最初に出会った怪人が追いついてきた。
 「・・・・面白い!おいお前、コイツ、運んでくれ。」
 キュルッと声をあげると指示に従って祐一を担ぐ。
 蜘蛛の怪人たちはそのまま二人を連れて、どこかへ去っていくのだった・・・。